365日多趣味な日常

フィルムカメラや本、アニメなどを中心とした神田の日常

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【ネタバレあり】映画「君の名は」を見る前に「秒速5cm」を見ておけ!

      2019/06/15

 

本日、地元の映画館で「君の名は」を見てきました。

世間的にも大注目のこの映画。テレビでも良くCMを見かけますね。

主役に神木隆之介

音楽にRADWIMPS

といったところでやはり注目されているようです。

また、映画を見た人はストーリーが良かった、何回も見に行きたくなったと大絶賛。

僕は過去の新海作品は「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」を見ており

画集「空の記憶」を買ってしまうほど新海誠ファンです。

そんな僕は正直なところ今回の映画にさほど期待はしていませんでした。

しかし、実際に見に行ったところ涙が止まりませんでした。映画館で大号泣してしまいました。

それもすべて事前に見ていた「秒速5センチメートル」を初めとする新海作品の世界観を理解していたからだと思います。

キーワードは新海誠作品に通じる「忘れられない人を追い求める」という心理です。

映画を見ていない方は是非とも事前に、秒速5センチメートルを見ることをお勧めいたします。

以下ネタバレを含見ますので、「君の名は」を見ていない方は閲覧をお勧めしません。

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一般受けを狙いすぎな気がしていた

 

前評判も良いけれども、かつてからの新海誠ファンではなく、新たに知った人たちが大騒ぎしているイメージがどうしてもありました。

RADWIMPSファンだったり、神木隆之介が好きといった新しい層の満足度が高いんだろうなと。

新海誠の従来のファンが感じている魅力に、切なさや寂しさ。惹かれあうもの同士の距離感の描き方、そしてそれに伴う背景描写があったと思います。今回の「君の名は」はそういった独特の世界観を評価している感想を見受けられないような気がしていました。

RADWIMPSや神木隆之介の採用は注目集めの意味合いがあるんだろうなと感じていました。

主題歌の「前前前世」は今までの新海作品の主題歌と比べてアップテンポで新海誠の世界観とずれているような気もしていましたし。

僕はRADWIMPS自体は大好きでアルバムも全部聞いています。しかし、新海作品と結びつくイメージがありませんでした。

映画を見初めて少し経つまでは、きっと注目集めのためのものだろうなと……

しかし、見終わった後に言えることは今回の新海誠は本気だと言う事でした。

新海誠の本気具合

 

映画を見終わった後だから言えることですが、今回の新海誠は本気だと言う事でした。

主題歌はRADWIMPS
主演は神木隆之介
だけでは飽き足らず
キャラクターデザイン – 田中将賀(あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない[DVD]心が叫びたがってるんだ
作画監督 – 安藤雅司(紅の豚千と千尋の神隠し思い出のマーニー [DVD] 他ジブリ作品)

等々、そうそうたる顔ぶれです。

このような素晴らしい方々をそろえても本当に伝えたかった物語なんだと、思いました。

今までの新海監督は評価されている映像美と人間の内面と心理的な距離感を描いた雰囲気たっぷりの作品でした。
自らの価値観や世界観を「分かる人にこそ」わかってほしい!といった自分の魅力を強く押し出した形での映画構成となっておりました。

しかし、今回は違う、より多くの人に知ってもらいたい。伝えたいものがある。理解してもらいたい。
魅力の押し出しだけではなく、より万人受けするように上手に魅力を「生かす」形で映画を作っていたように感じました。

ストーリーに厚みがあった

 

肝心のストーリーですがこれがまた面白い!

過去の作品では、登場人物の心理的距離感に重きを置いていたため、わずかな動作や視線の送り方。自分での語りなどで心理描写を行って映画が進んでいました。深みが増すものの「エンターテイメント」という部分では欠けていたように思え、ここが好き嫌いが分かれる部分かと思います。

しかし、今回の「君の名は」では、お互いの心理的距離や心理描写だけではなく、身体の入れ替わりや都会と田舎の感覚の違い、時間軸のずれ等、心理描写だけでなく観客を引き込む要素がたっぷりとありました。
そこでのやり取りを入れていく中でお互い惹かれあうといった構成のため観客は常に物語に引き込まれており、飽きる要素が無かったというのが今までとは大きく違ったなと思います。

また、日常の中でのやり取りが多かったため、キャラクターが生き生きとしていたように感じます。
もう深みのある新海作品というよりも一つの「エンターテイメント作品」として非常に良い出来で面白くありました。

ならば過去の新海作品ファンは楽しめないのか?

いいえ、そんなことはありませんでした。新海ファンだからこそ涙が止まらなくなるほど感動しました。

「忘れられない人を影を追い求める」

 

新海誠の根底に流れている大切なこと一つに
「記憶も定かではないような、自分の中のおぼろげな過去のいとしい人を追い求めてしまう」というものがあると思います。
かつて好きだった初恋の人がどうしても忘れられない。かつてのそのイメージを追い求めてしまうため、今を生きていても過去に目を向けてしまう。
そういった過去への執着や羨望といった気持ちというのが、新海作品のすべての根底に流れていたと、僕は思っています。

「秒速5センチメートル」の遠野 貴樹と篠原 明里の関係がまさにこれにあたります。

ここで過去の作品を見ている人と新海誠作品に親しみのない人で差が出てきます。

さて、肝心のストーリーに触れていきましょう。若干のネタバレと個人的な批評を含みます。

この「おぼろげな過去の忘れられない人」といったものを感じられるのは物語の後半になります。

ご神体のある山の上で、たそがれ時に逢えないと思っていた二人が逢えることとなります。

ここで気になっていて会いたかった存在ではなく、二人の気持ちは完全に通じ合い、二人は互いになくてはならない存在になります。

もう一度会えるように名前を手に描こうと提案して、タキはみつはの手に名前を書きます。みつはが同じようにタキの手にも名前を書こうとした瞬間に二人の時間軸が途切れ、離れ離れになります。

タキはみつはの事が思い出せなくなり、忘れまいと叫び必死に努力しますが、その記憶は次第に薄れていきます。
そしてタキは心にぽっかりと穴が開いたように、誰かに逢いたくて必死に努力していた記憶だけは残しみつはの事がわからなくなります。

みつはは隕石落下からみんなを救うために発電所を爆破し、町人を高校まで避難させようと努めます。
その最中、ふと気が付いた瞬間にタキの名前が思い出せなくなります。
やらなければいけないことと突然の忘却にパニックになりつつもみつはは駆け出しますが、途中で転んでしまいます。

ここで、タキが手に書いていた名前をみてすべてを思い出し奮起すると、僕は映画を見ていて思いました。
タキが生きる時間よりも3年前にみつはは生きています。みつはがタキの事を覚えてさえいれば、三年後にタキのもとへ会いに行くことができます。僕はずっと「逢いに行け、逢いに行け」と念じていました。(笑)

しかし、手を広げた中には、「好きだ」の文字。

ここで完全にお互いがお互いの名前などがわからなくなります。

みつはが劇中で「これじゃ名前分からないじゃん」とつぶやくシーンがありますが

ここで、僕は完全にやられたと思いました。
新海誠がやりたかったことはこれだと。この喪失感こそ、常に彼が描きたかったものだと。

その後、タキの日常になり、みつはを救おうとし、みつはと逢って、そしてみつはを忘れ5年がたちました。

みつはの事も覚えておらず、5年前に糸守に何をしに行ったのかもよく覚えていないが、隕石落下を念入りに調べ何か大切なものを探し求めていたと、どこか欠けたような喪失感を感じています。

事実彼は就活もうまくいかず、友人たちやバイト先の先輩の時間の流れにおいていかれるように描写されます。

そして時折みつはに名前を書いてもらうはずだった右手を見て辛そうな寂しそうな表情を浮かべています。

観客に過去に何かを置き忘れてきた、そんなことを思い起こさせます。

そう、気が付く人は気が付くでしょう。秒速5センチメートルの最終章のそのままだと!

新海誠が描きたいものは変わっていなかったと!

最終的な話をすると、みつはとタキは電車の窓越しに顔を合わせて互いの事を思い出します。

しかし、エンターテイメント性を持たせるのであれば、ラストにカフェでみつはの友人の姿を見た時に

何かを思い出し、そこからみつはの事を探り当てて出会えば良かった話です。

その方が盛り上がりや、スピード感、ワクワク感を出したまま映画は終わることができたはずです。

そうせずに、カフェでみつはの友人に気が付かないどころか、歩道橋の上でみつはとタキがすれ違いそれでも気が付きません。

登場人物のその後の人生をカットカットで描き、二人が出逢えた奇跡から一転の喪失感を念入りに描写しています。

歩道橋でのみつはの振り返りを入れることで、みつは自身も思い出せないタキを追い求めていたことがうかがえます。

ここで、過去の新海誠ファンはやはり新海誠は変わっていなかったと強く感じるはずです。

しかし新海誠はさらに想像を上回ってきました。

主人公とヒロインを最後に合わせるというラスト

最後は離れ離れというのが新海誠の中ではあたりまでした。

「忘れられない人を心の中に抱えたまま生きていく」といった新海誠の信念が

最後に出会えると言う事で、登場人物達のその先の一歩というものを描いてくれました。

僕はこのラストで涙が止まりませんでした。

秒速5センチメートルの貴樹に、過去の作品で離れ離れになってしまったすべての人物に

「喪失感だけではないよ、その先の未来がきちんとあるんだよ」

と伝えているような気がしてならず、過去の人物たちがみな報われたように感じました。

一つ新海誠という監督の作品の完成形がここにある

本気でそう思いました。

今回、この「君の名は」を見に行けて本当に良かった。

心の底からそう思いました。

このブログをここまで読んでくれている人は映画を見た人がほとんどでしょうが

秒速5センチメートルを見ていない方がいましたら、ぜひご覧になってみてください。

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