【宇宙よりも遠い場所】母を呼ぶ一人の少女がそこにいた【感想・考察】
2019/06/15
宇宙よりも遠い場所。
青春群像劇として始まったこのアニメ。
全13話、最高の物語が生まれた。
全員が、南極をめざし前を向きながら
実は過去の自分を人生を清算していく物語です。
この記事では4人の心境の変化に着眼してこの物語を紐解いていこうと思います。
目次
彼女達の群像劇
そこは、宇宙よりも遠い場所──。
何かを始めたいと思いながら、
中々一歩を踏み出すことのできないまま
高校2年生になってしまった少女・玉木マリことキマリは、
とあることをきっかけに
南極を目指す少女・小淵沢報瀬と出会う。
高校生が南極になんて行けるわけがないと言われても、
絶対にあきらめようとしない報瀬の姿に心を動かされたキマリは、
報瀬と共に南極を目指すことを誓うのだが……。
退屈な日常から抜け出したい少女・キマリ
母を亡くした少女・報瀬
過去のしがらみを抱える少女・日向
本当の友情を知らない少女・結月
行き詰った人生の閉塞感から抜け出したい4人の違った人生が一つの旅を通して集約していく物語です。
退屈な日常から抜け出したい少女・キマリ
物語の始まりは一人の青春からはじまりました。
「南極にたどりつく」
実は報瀬の存在は100万円を拾う前から実はキマリも友人のめぐっちゃんも知っていました。
100万円を落とし主が報瀬だと分かった時に、南極と呼ばれる少女の存在を二人は知っていたのです。
しかし、なぜその時にキマリは報瀬の姿に青春を重ね心を奪われなかったのでしょう。
彼女にとって南国や東京に遊びに行く、一人旅でさえ刺激的に見えていたのに。
きっと実現できないと、どこかで決めつけていたからでしょう。
それは100万円を手にして報瀬の本気の話を聞いて、誘われて。
彼女の世界は一変します。
そして一歩踏み出すことを決めたのです。
そして彼女は手に入れました、目指すものがあって日々駆け回る青春の日々を!
そして前半一番の見せ所、第5話の「Dear my friend」へと突入します。
南極へ旅立つ朝、友人のめぐっちゃんから突然絶交を言い渡されるキマリ。
キマリと同じような人生への閉塞感を、実はめぐっちゃんも感じていました。
一組の友情。キマリはその閉塞感を自分が一歩踏み出すことで解決しようとしました。
しかしめぐっちゃんはキマリとの縁を切ることで、距離を置くことで解決しようとしたのです。
「Dear my friend」親愛なる友達へ
2人とも互いを大切だと思う友達である。そこは依然として変わらない現実です。
キマリは距離を置く事ではなく、帰ってくる場所としてめぐっちゃんを選びました。
めぐっちゃんについて回るのではなく、追い越すのではなく、離れるのではなく、対等に並べるように。
南極を目指すことで、彼女は変われたのです。
本当の友情を知らない少女・結月
幼いころから芸能界で生きる白石結月にとって、友情こそが憧れてやまないものでした。
バイトして、カラオケ行って、買い食いして、遊んで、芸能人でなければ当たり前のように得られている日常に結月は憧れていました。
僕が印象的に感じたのが、その羅列の中に「バイト」が入っていたことです。
彼女はすでにバイトなんかよりもずっとすごい経験をしています。お金を稼ぐ事において、その年齢の子が経験できる最上のランク、芸能界に属しているのに彼女はバイトに憧れている。
結月にとって芸能界とは素敵な経験ではなく、自らを縛り付ける日常のようです。
彼女のデビューシングル「フォローバックが止まらない」も、皮肉なものでsns上のやり取りから生まれた歌でしょう。
彼女が本当に求めている生身のやり取りや友達との日常とは遠いものです。
きっと結月にとって、友情とは固い結束で結ばれた、確固たるドラマチックなものなのでしょう。
アニメやドラマなど物語の世界に現れるような、3話の最後でキマリ達が現れる夢のような。
窓の外から手を引いてくれる3人を、彼女は友情として求めていたのでしょう。
そんなドラマチックな出会いを、私は友達とするのだろうと。
友情が何かわからないから、結月はそう思っていたのです。
しかし現実はそんなことありません。
それでも彼女はすでに手に入れていました。
扉をノックして自分の前に現れてくれた、キマリ達という素敵な友達を。
物語の終盤、彼女はまた不安に襲われます。
共に南極を目指す旅はやらなきゃいけない事や新しい生活に追われ、友情をかみしめる間もなくめまぐるしく過ぎていく。
それこそが彼女の求めていた日常でしたが、旅には終わりがやってきます。
共に目指す場所があった旅仲間だったから、みんなで仲良くできたのだろう。自分はまた芸能界が日常へとに戻っていく。その中でこの4人はきちんと仲良くしていられるのだろうか、不安にかられます。
そして、彼女は友達誓約書を作ってしまいます。
それに泣きそうな顔で反応したのはキマリでした。
キマリはいつも結月が友達が欲しいそぶりを見せると涙を見せて抱きしめていました。
日向と報瀬ではなく、彼女の本当の気持ちを分かってやれるのはキマリなのです。
日向と報瀬にはきっ結月の本当の気持ちはわかりません、2人とも上辺だけの友情とは距離を置いたから。
友情とはそういうものではないと諭す事しかできなのです。
キマリは分かります。親友と距離を置かずに、日常の大切さもかみしめて旅に出たから。
彼女が求めているもの、その素晴らしさや大切さが分かるから。
その夜、キマリはめぐっちゃんとのやり取りを結月に見せました。
やり取りの頻度じゃない、どれだけ近くにいるかじゃない
お互いをきちんと理解しているかが大切なんだと。
そして日向、キマリ、報瀬の三人で結月の誕生日を祝い、彼女は友達を手に入れたのです
結月がメインの話のとき、特に注目してもらいたいのが、ドラマチックな展開が一つもない事です。
100万円を拾う事も、みんなで歌舞伎町を駆ける事も、友達のために声を荒げることも、何もないのです。
ただ、全ての人が経験するだろう、友達と共に過ごし話をし誕生日を祝う。
その当たり前の日常がどれだけ結月にとって大切なのかをとても丁寧に描いているように思います。
過去のしがらみを抱える少女・日向
4人の中でひときわ明るく前向きで行動力もある日向。
彼女のそのポジティブな言動からは心に抱えるようなものなど何もないように感じていました。
もちろん彼女の過去には高校中退という大きな出来事がありましたが、それは全て心の中で整理がついているように思えていました。
そう、あの瞬間までは。
6話「ドリアンショーへようこそ」で、しっかり者の彼女がパスポートを紛失してしまいます。
11話「ドラム缶でぶっ飛ばせ」では過去のトラウマの原因、陸上部のメンバーが現れます。
上記の話でキマリや結月は日向のことを思い、大丈夫と言い張る彼女を信じて普段通りに振舞いました。
しかし、報瀬だけは違いました。日向に言葉をかけるのではなく、行動で示したのです。
日向の静止も聞かずに、自分の友達を傷つけるなと叫びました。
報瀬も周りの言葉に傷ついてきた人間です。
日向は高校でうわべだけの関係や馴れ合いに嫌気がさして高校を中退しています。
行動のみが彼女達の心に響くのです。
キマリが「許す優しさ」を持ち合わせていたのなら、報瀬が持っていたのは「踏み込む強さ」でした。
そしてその強さが日向の心の闇を打ち払ってくれたのです。
本当に自分に向き合ってくれる仲間と、彼女は出逢えたのです。
報瀬の元へ集約する想い
明るい音楽と可愛らしいタッチで
会話も軽くポジティブ気持ちで描かれる
【宇宙よりも遠い場所】
しかし、本当はみんな暗く後ろを向いているのです。
それを明るくポジティブに描くことでに仕上げています。
監督と脚本家は本当に上手くこのアニメを作ったしみじみ思います。
彼女たちの前向きさや一歩踏み出す勇気に焦点を当てつつも
彼女たちのトラウマを少しづつ溶かしていく過程を描いていて、それが心に響くのです。
そして物語は
それが彼女の人生だった
12話【宇宙よりも遠い場所】
この宇宙よりも遠い場所というアニメはキマリが主人公として描かれますが、大筋のストーリーは報瀬が母に会いに行く、というところを中心にしています。
彼女は過去、母が亡くなったと聞いてから、毎日母を探すような日々に囚われてしまいます。
そしていつからか、母が亡くなったあの場所に、母に会いに行くと言い始めました。
報瀬自身も母が生きているなんて思ってはいないはずです。
中学高校生にもなって南極で行方不明になったらそれは亡くなったと同義であるとわからないわけありませんから。
それでも、彼女は南極に行くことを辞めませんでした。
アルバイトをして友達も作らず、ひたすら、南極に行くため、母のぬくもりを求めて。
母に会う、南極に行く。
それは彼女の中で使命に変わっていきました。
南極に行く船の中で、キマリにいくつもの選択肢の中から選んだ道の上にいると諭されたように
彼女は他の選択肢には目もくれずに盲目的に南極を追い求めていました。
そして、彼女は本当に南極にたどり着きます。
母が見た景色、母と共に旅した仲間、空間。
その全てに包まれた彼女は母を感じるのではなく、目的が見えなくなってしまいました。
彼女自身も分かっていました。ここに母がいるわけではないと。
南極に初めて降り立った時、彼女は「ざまーみろ!」と叫んでいます。
彼女の中で、母を探すことよりも南極になんて行けないと言った人達を見返したと息まいていました。
しかし本当はそこも母がいた場所。沈む夕日も母が見た景色。
彼女の願いはすんなりと叶ってしまいます。
彼女の中の柱はすんなりと消えていきました。
報瀬の中の強さの源が少しづつ減ってゆきます。
そして出会うことになった、母の残した遺品
12話のラスト、報瀬が母のPCを開いた時、彼女の全てが叶ったのだと僕は思っています。
止まっていた時間が動き出したとか、淀んでいた想いが溢れだした。とか、そんな生易しい感情ではありませんでした。
報瀬の中にずっと住み続けていた母を求める女の子。
もっともっと、自分が積み重ねてきて、それでいてひた隠しにしてきた、母を探す日々。
届くはずのないメールに少しづつ積み重ねてきた、母への本当の気持ち。
南極に行きたいだなんて、きっと彼女にとっては外の世界に見せる強がりだったのだとおもいます。
母に会いにゆくのだと。母の姿を探し求めてうろたえて弱く生きる自分なんていない。
同情なんていらない。薄っぺらい友情なんていらない。
宇宙よりも遠い場所。
南極だって北極だって、きっと彼女には関係ない。
だから、彼女にとって本当に心を打ったのは
母がいた証が南極にあったのではなく、自分の誕生日を母がパスワードにして自分のことを考えてくれていたのではなく
そのどちらでもなく
届かないと思っていた自分の気持ちが母に、母のいた南極に届いていたのだ。
毎日、少しづつ、良い事も悪い事も、強がることなくお母さんに伝えたかったそのすべてが
届いていたのです、南極まで。
その積み重ねの想いのすべてが、よみがえってきました。
母に伝えたい言葉がどれだけあったのか、彼女が人生においてどれだけ母親を追い求めてきたのか、それを自らが送っていたメールのすべてを見て思い出したのです。
南極に来たかったのではない、母に会いに来たかったのだ。
お母さんがどんなことを考えて、どんな景色を見て、どんな夢を見たのか。
そんなのは理性的で対外的なほんの一抹の理由にすぎなかったのだとおもいます。
彼女は母に会いに来たかったのです。人生の中で母の姿を追い求めていたのです。
彼女の中で「南極で母に会う」の願いがかなったかどうか、それはアニメを見ている僕らにはわかりません。
しかし、確実に彼女は【母に会いたいと願い続けていた自らの人生の全て】に直面したのだ。
母が出逢った最高の仲間に、彼女も出会えたのだ。
もう一度ここに来よう。誰一人かけることなく。
そういって甲板の上で誓い合い、4人は空港で別れました。
全員が出逢えたのだ、将来に向けて共に歩める仲間に。
キマリ、日向、結月
そして
白瀬は母と同じように、ともに宇宙よりも遠い場所を目指せる仲間が見つかりました。
長い長い人生
母をなくした少女
集団生活からドロップアウトした少女
芸能に身を置く少女
非日常に憧れる少女
きっと過去と同じように生活をしていたら出会えなかっただろう人間に
出逢えたのです、一歩踏み出すことで
その4人が共に出会えたそのすべてが最高の彼女たちの宝物になったであろう。
一歩踏み出すことの人生においての大切さ
その全てをこのアニメは教えてくれている。
最高の青春群像劇です!!
売り上げランキング: 4,997
ps:僕は一番日向が好きです。
売り上げランキング: 566